正確に何が起こっているのかはまったく理解が不可能だった。しかし、屋上へ出た凛と燕は、ともかく、交戦中であることをまず認識した。
そして氷鉋のクナイが飛騨を狙って…そして、それを飛騨が弾いたところでようやく交戦理由と状況が見える。
「何故」などという疑問は今は考えている余裕は無い。わかっているのは氷鉋が飛騨を攻撃していることと、それを生徒会の顧問が迎え撃っている、という理解に苦しむ状況である、ということだけだ。
黒姫の右手が再び空を凪ぐ。再び屋上のコンクリートが轟音と共にめくれ上がった。
部活棟の屋上から壬生浪の半数を銀色の粒子に変えながら、転落防止のフェンスを完全に破壊している。これが『時間の裏側』でなかったら、校長か教頭が夏休み前に校内整備に当てる予算が尽きた(むしろ完全に赤字である)と理事長に泣きついていたに違いない。……泣きついたところでどうなるか、あの理事長ではまったく見当がつかないが……。
ざわり、と風が吹く。それに誘われるかのように空間が歪み、黒い染みがさらに染みだしてくる。凛の周りにあらたなリングが浮かび、燕はようやく我に返った。
「何がどうなってるんだ」
そうつぶやいたときには、既に燕の片手には『魔道書』が開かれている。
「……鳴!」
黒姫の爪をさらに避け、再び壬生朗を足場に宙へ飛んだ氷鉋の後に凛の声が聞こえたのかどうかはわからない。が、その声は明確な危険を知らせているものだった。
「!」
方法は氷鉋と同じだった。同じやり方で飛ぶ存在がいると氷鉋本人が思わなかったのは事実だが。
「……わるいな」
かすかに空を切る音に、刹那視線を背後に向ける。その視線が相手をとらえる前に、鈍い感覚が氷鉋の身体を貫いた。自分の身体の前に、良く砥がれた凶器が突き出ている。
「メイ!!」
凛の悲鳴のような声が聞こえる、と遠くの声を聞く。
「……。……」
後ろからの声がくぐもった声で囁いた言葉は氷鉋にしか聞こえなかった。
「!」
そのくぐもった言葉に驚愕の表情を浮かべたことを誰かが気づいたのかは定かではない。ぐらりと彼はそのまま崩れた。
「先輩!!」
凛に続いて沙織が悲鳴を上げたときには、既に氷鉋は屋上に突っ伏していた。その身体からあっさりと保険医は凶器を引き抜く。それは三日月を描く薄刃の草刈鎌だった。
えぐられ、傷だらけのコンクリートの上に赤が広がっていく。
「……。や、やりすぎてねぇか……」
部活棟の屋上を遠慮なく抉り飛ばした黒姫が、まったく説得力の無いまま、凍りついた生徒会を代表して一応のように保険医に問いかける。
「……。」
返答よりも先に、沙織の髪を掠めて保険医の鎌が飛んだ。それは沙織にとって凍り付いていた思考を動かすには十分すぎた。
「!?」
振り返ると黒い生ゴムでできたガーゴイルの額に、ばっくりと頭を割るような格好で鎌が突き刺さっている。直後に壬生浪は銀色の粒子に砕ける。
「殺してはいない」
あくびれもなく言った保険医の手には、既にもう一本鎌が握られている。
「燕先輩っ!」
我に返った沙織が状況を見て叫ぶのとほぼ同時に、燕の『魔道書』と燕の前に大きな魔法陣が浮かび上がっていた。
銀色の矢が文字通り雨霰と降り注ぎ、次いで黒姫の爪が再び部活棟の屋上をさらに抉って半壊させると、壬生浪はほぼその姿を銀色の光に分解した。極めて悪運強く銀矢と爪をかいくぐった最後の壬生浪がその翼で宙に浮かび上がる。が、直後に頭と胴体が切り離され、やはり銀色に分解された。その銀色が宙に四散しきる前に保険医の手にブーメランの要領で鎌が戻ってきている。
壬生浪が完全に姿を消し、再び重苦しい沈黙が屋上に降りる。
凛が呆然と氷鉋を見下ろしていた。
「……こ、駒ケ岳先輩…?」
今にも倒れそうな凛にそっと声をかけると、真っ青な顔が沙織を振り返える。
「……」
ぱくぱくと何事か言葉にしようとして、結局凛の言葉は声にならなかった。
「……手遅れ、じゃないわよね?」
かわりに屋上へ顔を出したのは、階段を駆け上がってきたらしい翠と明らかに部外者と思われる妙齢の女性だった。
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